日本エリアマネジメント支援協会(JASA)は、「インバウンド」を通じて、エリア内外の交流を生み出す施策を提案し、地域の活性化を目指す専門組織です。
本記事では、現在のインバウンド状況、2024年の中国人訪日者数や人気観光地、消費動向、中国人ビザ要件の緩和とその影響、そしてビジネスへの活用方法について、解説します。
1. インバウンド最新動向 ~観光庁「2024年暦年の調査結果」より~
2025年1月15日(水)、観光庁は、インバウンド消費動向調査の2024年暦年の速報値を発表しましたが、2024年(1月~12月)は、訪日外国人旅行者数が過去最多を記録しました。
また、日本での消費額は、前年に比べて53.4%増となり、コロナ前の2019年と比べると69.1%も増え、その結果、2024年は、過去最高の8兆1,395億円に達しました。
国・地域別の消費額では、中国が1兆7,335億円、台湾が1兆936億円、韓国が9,632億円、米国が9,021億円、香港が6,584億円となり、上位5カ国・地域で、全体の65.7%を占めています。
なかでも、中国からの訪日旅行客による消費額は、全体の21.3%を占めており、国別でトップとなっています。

このデータからもわかるように、日本政府も、中国マーケットを無視することは出来ません。そして、世界中が中国人マーケットを取り合うため、インバウンドは、「世界との競争」なのです。
インバウンドに取り組むことは、世界と競争するということ。各国は、どの国をターゲットにして、どういう環境整備が必要かということを、地域事情にあわせて研究し、対策を強化しています。
2. 中国人ビザ要件緩和の経緯
さて、昨年12月25日、岩屋毅外務大臣は、北京で行われた王毅外相との会談において、中国人向けの「数次有効の短期滞在ビザ(マルチビザ)」の発給要件を緩和する方針を表明しました。この動きは、日中間の経済・人材交流の活性化を目的としています。
ビザには2種類あり、一次ビザは有効期間内に1回しか入国できないビザで、数次ビザは、有効期間内に何度でも入国できるビザです。
主な緩和措置内容は以下のような内容です。
① 団体観光ビザの滞在可能日数が15日以内から30日以内に延長される
② 観光数次ビザの有効期間が最長5年から10年に延長される
③ 65歳以上の申請者に対しては在職証明書の提出が不要となる
具体的な緩和要件については、まだ、政府から公表されていませんが、そもそも、中国人がビザを取得するには、年収要件などで厳しい条件を満たす必要があります。
したがって、これらの基準を満たすのは、中国国内でもおそらく数万人ほどで、さらに日本に来る人となると、その1000分の1程度ではないかと予測する専門家もおられます。
3. ビジネスへの活用方法
さて、ビザ要件の緩和に伴い、中国人観光客の増加が予想されますが、インバウンド市場が10兆円規模に拡大すれば、日本経済や労働市場も活性化します。しかし、このビジネスチャンスを手に入れるには、エリア全体で取り組むことが必要で、行政や地元企業が一体となって戦略を検討しなければなりません。
例えば、中国人をターゲットにした戦略の場合
■プロモーション強化:銀聯アプリを活用し、効果的な情報発信を行う
■日本のマナーを啓発する:地域住民が抱える課題を解決できるよう「エリア情報」を充実させ、事前にマナー啓発を促す
■地域資源の活用:訪問先の多様化を図るため、人気観光地だけでなく、地域の特色を活かした観光資源を発掘してPRを行う
■キャッシュレスと外国語対応の推進:店舗や施設での中国語対応を強化した上で、キャッシュレス環境を整える
このような視点で検討します。従って、中国市場の動向を読む力と地域一体となった戦略会議には、専門知識や経験者の協力体制が必要となるのです。
4.持続可能な観光に向けた努力
ところで、観光ビザの発行要件が緩和されれば、中国人観光客の増加が期待されますが、一方で、オーバーツーリズムへの対策不足も懸念されます。
日本各地の魅力を国内外に発信し、訪日観光客との交流を促進することで、地域の経済や文化の発展につながりますが、オーバーツーリズムや人手不足によって、市民生活に支障が出てしまえば、市民は疲弊し、もはやその地域は、外国人観光客の受け入れに「限界」を感じます。だからこそ、商機拡大とオーバーツーリズム対応は、いまや「両輪」で戦略を考える時代なのです。
政府が目指すのは持続可能な観光。
国は、単なる経済活動の拡大だけにフォーカスするのではなく、地域住民との共生の具体策を「政策」に落とし込むことも重要です。そこで、JASAは2022年から、京都市が抱える「オーバーツーリズム」への対応に則し、銀聯国際との橋渡しを実施してきました。
5.JASAの取り組み「京都市と銀聯国際(UPI)との地域包括連携協定」
JASAでは、インバウンドを単なる経済活動の拡大だけにフォーカスするのではなく、地域住民との共生の具体策を「政策」に落とし込むための活動を目指しています。
特に、中国市場の動向を注視し、地域の皆様と共に効果的な戦略を策定・実行するには、多くの調整が必要になります。
JASAが実施した、京都市とUPI(銀聯国際)との地域包括連携協定では、京都市の中で3つの分科会を設置いただき、UPI(銀聯国際)との共同施策をアレンジしました。共同施策の中で、観光情報に加え、マナー啓発情報の発信を実現しています。また、様々な関係機関との会合を開催し、下記のようなPOPも完成しています。

京都市の紋章が入った銀聯との取り組みは、行政では初の試み
JASAは、地域の振興や街の活性化に取り組むため、地域行政や企業との橋渡し役となり、さまざまな施策事業を行う専門組織です。
今後も、行政と地域企業と一丸となった、商機拡大とオーバーツーリズム対応の両輪施策をサポートいたします。